東京地方裁判所 平成10年(ワ)3678号 判決 2000年2月29日
原告
株式会社荏原製作所
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
福田親男
同
近藤惠嗣
被告
株式会社鶴見製作所
右代表者代表取締役
【B】
右訴訟代理人弁護士
安田有三
同
小南明也
右補佐人弁理士
【C】
同
【D】
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
一 被告は、別紙物件目録記載の水中モータポンプを製造し、販売してはならない。
二 被告は、その占有する別紙物件目録記載の水中モータポンプを廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金四億五〇〇〇万円及びこれに対する平成一〇年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。
登録番号 実用新案登録第二一四八九九八号
考案の名称 水中モータポンプ
出願日 平成元年一二月二六日
公告日 平成七年六月二一日
登録日 平成九年一〇月三日
2 本件実用新案権に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲記載の請求項1及び同2は、次のとおりである(以下、請求項1記載の考案を「本件考案1」と、請求項2記載の考案を「本件考案2」といい、両者を併せて「本件考案」という。)。
(一) 請求項1
「下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴とする水中モータポンプ。」
(二) 請求項2
「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け、中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け、これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにしたことを特徴とする請求項1記載の水中モータポンプ。」
3 本件考案1の構成要件は、次のとおりに分説できる(以下「構成要件A」などという。)。
A 下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいて、
B 上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、
C 該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、
D ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを
E (右中間ケーシングの下面に)嵌め込んだ
F ことを特徴とする水中モータポンプ。
4 被告は、別紙物件目録記載の水中モータポンプ(以下「イ号物件」という。)を製造、販売している。
二 本件は、原告が被告に対し、イ号物件の製造販売は本件実用新案権を侵害すると主張して、イ号物件の製造販売の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償を求める事案である。
第三争点
一 イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属するかどうか
1 原告の主張
(一) 構成要件A及びB
(1) 「製造上の中子を不要とする」(構成要件A)との限定は、下部側ケーシングの形状を限定するものであり、これは、技術的には「鋳造以外の方法で製造可能な」との限定とほぼ同意義であって、下部側ケーシングが鋳造技術で製造されること(金属製であること)を前提とするものではない。
イ号物件のポンプケーシング20は、本件考案の「下部側ケーシング」に当たり、内側がやや上方に開いた形状をしているから、中子を使用せずに製造できる形状である。
(2) 「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成要件B)という表現は、モータを含めた水中モータポンプ全体における中間ケーシングが、水圧を保持するという上部側ケーシングの役割を果たしていることを明確にしたものである。
イ号物件のオイルケーシング29は、右のような意味での、本件考案の「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」に該当し、これとポンプケーシング20によって上下分割型ポンプケーシングを構成している。
(3) したがって、イ号物件は、構成要件A及びBを充足する。
(二) 構成要件C及びD
(1) イ号物件のオイルケーシング取付ボルト131の頭部は、ポンプ室のボリュート渦径付近に位置し、後面ライナ31がなければ水流にさらされる場所に位置しているから、後面ライナ31は、取付ボルト131を水流から遮蔽するものである。
なお、後面ライナ31は、オイルケーシング29の下面全面を覆っているが、そのことから後面ライナ31が取付ボルト131を水流から遮蔽するものではないということはできない。
(2) 本件考案の「リング」(構成要件D)は、シャフトの貫通する中央部に開口部がある略円形状の物を意味しており、帯状の物に限定されないところ、後面ライナ31は、中央部にオイルケーシング29の主軸貫通部を通過させるための円形の開口部がある略円形状をしており、この開口部は、オイルケーシング29下面の中央にあるシャフト貫通部の円形段部(貫通孔周辺部29c)に嵌め込まれるものである。また、後面ライナ31は、ゴム製で、交換可能な部品である。
(3) したがって、後面ライナ31は、「中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリング」に当たるから、イ号物件は、構成要件C及びDを充足する。
(三) 構成要件E
イ号物件の後面ライナ31の中央の開口部の周囲の厚さ及び直径は、オイルケーシングの中央部に段部として形成された貫通孔周辺部29cの高さ及び直径と一致している。また、後面ライナ31の円形の開口部の内側には環状突起31eが形成され、この環状突起31eをオイルケーシングの溝29dに嵌め込むと同時に、オイルケーシング29の三角溝29aに後面ライナ31の肉厚部31dを当てることによって、後面ライナ31がオイルケーシング29に固定されるのであるから、後面ライナ31は、オイルケーシング29に嵌め込まれているといえる。
したがって、イ号物件は、構成要件Eを充足する。
(四) 以上のとおり、イ号物件は、本件考案1の全ての構成要件を充足するから、その技術的範囲に属する。
また、イ号物件は、後面ライナ31の円形の開口部の内側側面に突起が設けられているから、本件考案2の「弾性体リング内径側にOリング状の突起を設け」との構成要件を充足し、オイルケーシング29の主軸貫通部が下方に向かって円板状に少し突出し、その突出部の側面に溝が設けられているから、本件考案2の「中間ケーシング側に該突起と嵌合する環状溝を設け」との構成要件を充足し、後面ライナ31をオイルケーシング29に強く押し付けることにより、後面ライナ31の右突起は、オイルケーシング29の右溝に嵌め込まれ、後面ライナ31は、オイルケーシング29に固定されるから、本件考案2の「これらの突起と溝を強制的に嵌め込むことによって、上記弾性体リングを中間ケーシングへ固定するようにしたこと」との構成要件を充足する。
したがって、イ号物件は、本件考案1の全ての構成要件を充足した上で、本件考案2の全ての構成要件を充足するから、本件考案2の技術的範囲に属する。
2 被告の主張
(一) 構成要件A及びB
(1) 「製造上中子を不要とする」とは、上下分割型ケーシングの製法を限定する要件であり、右の「製造」とは、鋳込み製造をいうから、本件考案の「ケーシング」は、鋳込み製造によって得られる鋳物(金属製)であることを要する。
イ号物件は、ポンプケーシング20を含むポンプ部がゴム製であり、鋳物(金属製)ではないから、構成要件Aを充足しない。
(2) 本件実用新案登録の出願時には、弾性体の上部側ケーシング及び下部側ケーシングによってポンプケーシング(上下分割型ケーシング)を構成し、金属製の中間ケーシングをボルトでモータフレームに取り付けた水中モータポンプが知られており、この水中モータポンプは、中間ケーシング、上部側ケーシング及び下部側ケーシングの三層構造となっている。
これに対し、本件考案は、中間ケーシングが上部側ケーシングを兼ねて、上部側ケーシングを不要とするものであり、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成要件B)と「下部側ケーシング」(構成要件A)により「上下分割型ケーシング」(構成要件A)を構成するものである。
したがって、本件考案は、構成要件A及びBにより、「中間ケーシング及び上部側ポンプケーシングの両者を使用することを排除した」ものということができる。
イ号物件は、オイルケーシング29を中間ケーシングと仮定しても、これと上部ポンプケーシング31aの両者を組み合わせて使用しているから、本件考案の「中間ケーシング及び上部側ポンプケーシングの両者を使用することを排除した」ことに当たらない。
(二) 構成要件C及びD
(1) 本件考案に係る水中モータポンプは、剛性体のオイルケーシングを中間ケーシングとし、その下面により直接土砂水の流れるポンプ室上面の蓋をし、中間ケーシング上部のオイル室に発生する熱をポンプ室に伝え、ポンプ室の冷却作用でオイル室の温度上昇を抑えるものであるから、中間ケーシングの下面を水流で冷却するため、中間ケーシングの下面が弾性体リングを介することなく、ある所定の範囲で直接水流に触れることを要する。
本件考案においては、右のような理由から「リング」(帯状の物)と定めたのであり、弾性体リングは、モータ主軸貫通部を除く中間ケーシングの下面全面を覆うものであってはならない。
(2) イ号物件の後面ライナ31は、オイルケーシング29の下面全体を覆っている。
また、後面ライナ31は、オイルケーシング29全体に対応する三次元の構造体であり、「リング」(帯状の物)とはいえない。
したがって、後面ライナ31は、本件考案の「ボルト部を水流から遮蔽する弾性体からなるリング」(構成要件C、D)に当たらない。
(三) 構成要件E
リングを「中間ケーシングの下面に嵌め込む」とは、リングの幅に沿う溝を中間ケーシングの下面に切るようにして、このリング幅に沿う溝にゴムのリングを押し込んで嵌め込み、リングを中間ケーシングに固定することを意味する。
イ号物件は、オイルケーシング29、後面ライナ31、ポンプケーシング20、押さえ金具127及びストレーナスタンド23の五者全体を、オイルケーシング29とストレーナスタンド23との両者間でボルト72で締め込み、強固に一体として結合するものであり、これは、後面ライナ31をオイルケーシング29に「嵌め込む」ことには当たらない。
したがって、イ号物件は、構成要件Eに当たらない。
(四) 以上のとおりであるから、イ号物件は、本件考案1の技術的範囲に属しない。また、本件考案2(請求項2)は、本件考案1(請求項1)の従属項であるから、イ号物件が本件考案1の技術的範囲に属しない以上、本件考案2の技術的範囲にも属しない。
二 原告の損害
1 原告の主張
被告は、平成三年七月ころからイ号物件の製造、販売を開始し、本件実用新案権の公告日である平成七年六月二一日以降平成一〇年一月末までの間に、イ号物件を一台当たり六万円以上で合計七万五〇〇〇台以上販売したから、右期間におけるイ号物件の売上総額は四五億円を下らない。
本件実用新案権の通常の実施料は売上高の一〇パーセントを下らないから、被告は、少なくとも右売上総額の一〇パーセントに当たる四億五〇〇〇万円を原告に賠償する義務を負う。
2 被告の主張
原告の主張を争う。
第四当裁判所の判断
一 争点一について
1 証拠(甲二)によると、本件明細書の考案の詳細な説明には、次の記載があることが認められる(以下の記載で引用されている図面は、別紙本件考案図面のとおりである。)。
(一) 従来の技術
「従来、上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプには、・・・外装型水中ポンプと、・・・半側流形水中ポンプと、・・・全周流形モータポンプとがある。上記三つの型式のうちの一つである半側流形水中モータポンプは、第5図に示すように、モータ1によって駆動される羽根車2を収容したポンプケーシング3は、下部側ケーシング3Bと、上部側ケーシングに相当する中間ケーシング3A、ストレーナを兼ねた底板3Cとをボルト4によって締結して構成され、該中間ケーシング3Aと、モータ1を内蔵したモータフレーム5とは、ボルト6によって締結されてモータポンプを構成している。」
(二) 考案が解決しようとする課題
「上記した従来の水中モータポンプ(第5図)では、下部側ケーシング3Bは、上部開口がボリュート渦径Rより小径に形成されているため、製作時、中子を必要とする形状が多かった。そのため、この構造は、生産性が悪く、コスト高になるという問題点があった。」
「また、中間ケーシング3Aをモータ1に取付けるボルト6部は、水流にて長時間さらされるとボルト頭部等が摩耗(腐食)して、保守(メンテナンス)時に分解が不可能となる。ところが、下部側ケーシング3Bが、第5図に示すように中子を必要とする場合は、該下部ケーシング3Bの上面によって上記ボルト6部を、下部ケーシングポリュート渦径Rとは無関係に、水流から遮蔽することができる。
一方、下部側ケーシング3Bが上方に開放されていて製造上中子を必要としない場合には、第6図に示すように、該下部ケーシング3Bの上面によって上記ボルト6部を遮蔽しようとすると、常にボリュート渦径Rの制約を受ける。即ち、渦径Rが決まると、ボルト6の平面方向の位置設置場所が制約される。その結果、ボルト座は、必要以上に外周側によってしまい、ポンプ部の最大外形が大きくなってしまうという問題点があった。」「本考案は、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングをモータに取付けるボルト座のためにポンプ最大外径を大きくすることなく、ボルト部を保護し、且つ下部ケーシングの生産性を向上できるようにした水中モータポンプを提供することを目的としている。」
(三) 課題を解決するための手段
「上記の目的を解決するために、本考案は、
(i) 下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいて、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を水流から遮蔽するように、ゴムのような耐摩耗性の弾性体からなる交換可能なリングを嵌め込んだことを特徴としている。」
(四) 作用
「本考案は上記のように構成されているので、
(i) 中間ケーシングにモータを取付けるボルトは、中間ケーシングの下面に交換可能に嵌め込まれた耐摩耗性の弾性体リングによって水流から遮蔽されており、ポンプ運転時、羽根車から吐出された水流の中に、たとえ土砂などの異物が含まれていても、該ボルト部が摩耗することはない。また、上記ボルトを該リングによって水流から遮蔽することによって、該ボルトの位置を、ポンプ最大外径を大きくすることなく、ボリュート渦径Rとは無関係に設定することができる。
また、上記弾性体リングの材質を耐摩耗性に優れるゴム・・・で製作すれば、ポンプ運転時、・・・羽根車から吐出される水流によって構造上摩耗し易い羽根車裏面に対向する中間ケーシング壁面(下面)部wの摩耗を防止することができる。」
(五) 実施例
「第1図は、本考案の一実施例を示す水中モータポンプの縦断面図であって、・・・図において、モータ1によって駆動される羽根車2を収容したポンプケーシング3は、下部側ケーシング13Bと、上部側ケーシングに相当する中間ケーシング13A、ストレーナを兼ねた底板3Cとをボルト4によって締結して構成され、該中間ケーシング13Aと、モータ1を内蔵したモータフレーム5とは、ボルト6によって締結されてモータポンプを構成している。」
「本実施例(本考案)では、下部側ケーシング13Bが製造上の中子を不要とする上方を開放した形状をなしており、中間ケーシング13Aの下面には、該中間ケーシング13Aを(モータ1を内蔵する)モータフレーム5に取付けるボルト6部を水流から遮蔽するようにゴムからなる弾性体リング11が嵌め込まれている。」
(六) 考案の効果
「以上説明したように、本考案によれば次のような効果が奏される。
(i) 下部側ケーシングが製造上の中子を不要とする構造とすると共に、中間ケーシングの下面に、該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部を遮蔽する耐摩耗性の弾性体リング嵌め込んだことにより、ポンプ最大外径を大きくすることなくボリュート渦径とは無関係に、ボルト部を保護し且つ、下部ケーシングの生産性を向上させるばかりでなく、構造上摩耗し易い羽根車裏面の高価な中間ケーシングの摩耗を防ぐことができる。」
2(一) 右1で認定した事実と弁論の全趣旨によると、本件考案は、上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプに関する考案であること、従来の上下分割型ケーシングを使用する水中モータポンプにおいては、ポンプケーシングが下部側ケーシングと、上部側ケーシングに相当する中間ケーシング、ストレーナを兼ねた底板とをボルトAによって締結して構成され、当該中間ケーシングはボルトBによってモータフレームに締結されていたが、このような従来の水中モータポンプでは、中間ケーシングをモータフレームに取り付けるボルトBが水流に長時間さらされるとボルト頭部等が摩耗(腐食)して、保守(メンテナンス)時に分解が不可能となるという問題があったこと、これを避けるために、下部側ケーシングを製造上中子を必要とする形状とした場合には、当該下部側ケーシングの上面によってボルトBを水流から遮蔽することができるが、そのような形状の下部側ケーシングは、生産性が悪く、コスト高になるという問題点があったこと、他方、下部側ケーシングが上方に開放されていて製造上中子を必要としない形状の場合には、当該下部側ケーシングの上面によってボルトBを水流から遮蔽しようとすると、ボルト座が必要以上に外周側に寄ってしまい、ポンプ部の最大外形が大きくなってしまうという問題点があったこと、本件考案は、右のような問題点を解決すべき課題として、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングをモータに取り付けるボルト座のためにポンプ最大外径を大きくすることなく、ボルト部(ボルトB)を保護し、かつ下部側ケーシングの生産性を向上できるようにした水中モータポンプを提供することを目的としたものであり、上部側ケーシングに相当する中間ケーシングの下面に、当該中間ケーシングをモータフレームに取り付けるボルト部を水流から遮蔽するように弾性体からなるリングを嵌め込むことにより右課題を解決したものであること、以上のとおり認められる。
(二) ところで、実用新案登録請求の範囲の請求項1には、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成要件B)、「該中間ケーシングをモータに取付けるボルト部」(構成要件C)と記載されているところ、この記載に右1で認定した事実を総合すると、本件考案の対象とする水中モータポンプは、ボルトでモータに取り付けられている中間ケーシングがポンプケーシングの上部側ケーシングを兼ねるものであると認められ、本件考案は、そのようなモータポンプについて、下部側ケーシングを製造上中子を必要としない形状とした場合においても、ポンプ最大外径を大きくすることなく、中間ケーシングをモータフレームに取り付けるボルトを水流から遮蔽することができるように、当該中間ケーシングの下面に弾性体からなるリングを嵌め込んだものであるということができる。
そうすると、本件考案の「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成要件B)は、中間ケーシングがポンプケーシングの上部側ケーシングを兼ねていることを意味し、また、本件考案の「弾性体からなる交換可能なリング」(構成要件D)は、ポンプケーシングを構成する「上部側ケーシング」に嵌め込まれるもの(構成要件E)であるから、それ自体は「上部側ケーシング」ではない、すなわち、「上部側ケーシング」とは別個の部材であるということができる。
3(一) 別紙物件目録と証拠(検乙一)によると、イ号物件は、ポンプ部の一部であるポンプ室(ポンプケーシング)が周側ポンプケーシング20a、底部ポンプケーシング20b、オイルケーシング29の貫通孔周辺部29c、保護プレート58、後面ライナ31の上部ポンプケーシング31aによって構成されていること、後面ライナ31は、ゴム製で、オイルケーシング29の下面に固定され、ポンプケーシングの上面を貫通孔周辺部29cを除いてほぼ全面にわたって覆っていること、オイルケーシング29は、モータフレーム64の下部にボルトで取り付けられ、モータ部の一部であるオイル室を形成していること、以上のような構造を有するものと認められる。
(二) 右(一)のイ号物件の構成のうち、オイルケーシング29は、モータフレーム64にボルトで取り付けられているものであって、ポンプ部とモータ部の境に位置するものであるから、本件考案の中間ケーシングに当たるものと認められる。
しかし、ポンプケーシングの上面は、ほぼ全面にわたって後面ライナ31によって覆われていて、覆われていないのは、オイルケーシング29の貫通孔周辺部29cのみであるから、イ号物件においては、後面ライナ31が「上部側ケーシング」に当たり、オイルケーシング29が「上部側ケーシング」を兼ねているとは認められない。
そうすると、イ号物件は、中間ケーシングがポンプケーシングの上部側ケーシングを兼ねるものではないから、「上部側ケーシングに相当する中間ケーシング」(構成要件B)との要件を充足せず、また、後面ライナ31が、「上部側ケーシング」とは別個の部材である本件考案の「弾性体からなる交換可能なリング」(構成要件D)に当たることもない。
4 以上のとおり、イ号物件は、本件考案の技術的範囲に属しない。
二 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
なお、原告は、平成一一年四月二六日付け第三準備書面(不陳述)第一項により登録番号第二七八二五六九号特許権の侵害を請求原因として追加しているところ、これは民事訴訟法一四三条一項の訴えの変更(請求の原因の変更)に当たり、右請求は、本訴請求と請求の基礎を異にするものと認められるから、右訴えの変更を許さないこととする。
(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)
<以下省略>